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建築家と探す『地域の魅力』<日・中・琉の様式が融合> -1-

湾曲や遠近感、借景を巧みに利用

日・中・琉の様式が融合

写真1/中国風な趣の六角堂。住時の国王や冊封使の憩いの場。手前は、一枚の琉球石灰岩から切り出したアーチ橋
写真1/中国風な趣の六角堂。住時の国王や冊封使の憩いの場。手前は、一枚の琉球石灰岩から切り出したアーチ橋

識名園(那覇市字真地)

 当連載は、身近にある地域の魅力を再発見してもらうため、(社)日本建築家協会沖縄支部会員が、県内各地の建物や空間を紹介する。第1回は、那覇市字真地の識名園。悠久の歴史浪漫を感じさせる四の景にスポットを当て、慶佐次操さんがつづった。

 識名園は、1799年(江戸時代後期、15代尚温王)に造営され、日本様式の廻遊<かいゆう>式庭園で、心字池<しんじいけ>を中心に構成され、中国様式の六角堂、大小のアーチ橋、そして池を囲む琉球石灰岩の石積工法、御殿<ウドゥン>には琉球建築様式がうかがえることから、日本・中国・琉球3つの様式による「混合文化の風景」を醸し出していると言えます。建築・ランドスケープに私なりの解釈を添え、悠久の歴史浪漫へとご案内します。

一の景「石畳~湾曲路」

写真5/育徳泉につながる石畳の後に現れる、石垣に囲まれた切り通しの緩やかな湾曲路
写真5/育徳泉につながる石畳の後に現れる、石垣に囲まれた切り通しの緩やかな湾曲路

 入門し、育徳泉<いくとくせん>に至るゆったりS字形の石畳は、樹木が覆い緑のトンネルのようです。次に築山の背後を切り通し石垣に囲まれた緩やかな湾曲路=写真5を、岩山の間を潜るようにして御殿に導かれます。その導き方は、中国庭園に見られる典型的な技法で、限られた敷地空間において、奥行感があるがごとく経路をゆったりS字状に湾曲させ、そこを抜けるといきなり風景が広がり訪れる人々に感動を与えるという、臨場感への配慮がなされています。

二の景「御殿~庭園」

写真3/御殿。往時の上流階級のみに許された琉球建築様式を踏襲している
写真3/御殿。往時の上流階級のみに許された琉球建築様式を踏襲している

 湾曲路を抜けると急に視界が広がります。そこでしばし、たたずみ一呼吸。御殿=写真3から庭園へとゆっくり視線を移せば、冊封使の気分が伝わってきます。
 御殿廊下の蔀戸<しとみど>=写真4から見る庭園風景は額縁に納まる一連の風景画のようで、招かれる冊封使に和らぎを与えたことでしょう。庭園を垣間見ながら一番座への導きには、各空間の対比順列を効果的に配置する国王の気配りが読み取れます。

写真4/蔀戸からの眺めは一連の風景画。手前に心字池が広がり、奥は東屋が見える
写真4/蔀戸からの眺めは一連の風景画。手前に心字池が広がり、奥は東屋が見える

三の景「心字池・石橋・六角堂」

写真2/浮島に架けられた大小の石橋。右の小橋は自然石を積み上げ、左の大橋は加工石を組み上げ、扱いを変えた対比構成
写真2/浮島に架けられた大小の石橋。右の小橋は自然石を積み上げ、左の大橋は加工石を組み上げ、扱いを変えた対比構成

 浮島には大小2つの石橋が架けられ、小橋は自然石を積み、大橋は加工石を組み、あえて各々の扱いを変えた対比構成としています=写真2。次に浮島から心字池の東側を眺めれば、二等辺三角形の底辺から頂点に向かうように見えます。これは遠近法によって池に奥行感を与えると同時に、池の水が東を上流とした川の流れのごとく見せる日本庭園の作法によるものです。
 六角堂は中国風な趣を与え、住時の国王や冊封使の憩いの場で、一枚の琉球石灰岩から切り出したアーチ橋を渡ります=写真1。柳宗悦は、この石橋を「にくらしい程うまく形をとったではないか…。美の一つの型だと迄思へる。小品ではあろうが、之まで美しさは充ち充ちている」と絶賛したとのことです。

四の景「勧耕台からの眺望」

写真6/勧耕台からの眺め。南部方面の景色がパノラマで広がる。海はまったく見えない
写真6/勧耕台からの眺め。南部方面の景色がパノラマで広がる。海はまったく見えない

 ガラサームイを抜け勧耕台<かんこうだい>に至れば、視界が急に開け南部方面のパノラマ風景が広がります=写真6。海抜約80メートルの高台でありながら、ここからは海が見えません。中国の冊封使たちは「琉球は小島・小国にて、少しでも高台に登れば、どこからでも海が見えるだろう。ところがこの高台からはまったく海が見えないので、琉球も結構な広さの国土を有しているものだ」と驚いたそうです。地形をうまく利用した借景技法で、琉球を大国風に見せかける設計をした先人たちは、偉大なアーキテクトであったと思われます。
 識名園を散策すれば、往時の国王をはじめ、多くの技術者たちのいろいろな創意工夫と技術力で造り上げた空間に、想像力がかき立てられます。悠久の歴史浪漫に触れるようで、まさに至福の一時とも思えてきます。


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(文・写真/慶佐次 操((社)日本建築家協会沖縄支部・前支部長))
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞にて連載<第1328号2011年5月27日に掲載しました>

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