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建築家と探す『地域の魅力』<金武観音寺(金武町金武)>

錫杖掘りなどの彫刻が今も残る

『戦火免れた貴重な建築』

写真1/本殿。1934(昭和9)年に火事で焼失後、1942(昭和17)年に再建された
写真1/本殿。1934(昭和9)年に火事で焼失後、1942(昭和17)年に再建された

金武観音寺(金武町金武)

 金武町金武の金武観音寺は、今回の執筆者・仲間郁代氏(仲間郁代建築設計事務所主宰)にとって、思い出多い故郷の寺。県内で戦火を免れた木造様式の建築としても貴重だ。同氏が今も訪れるという金武観音寺を案内してもらった。

文・写真/仲間郁代
(社)日本建築家協会沖縄支部会員

 わたしのホームタウンにあるお寺、金武観音寺(写真1)。今年も参拝しました。子どものころから毎年初詣に通っていて、個人的にたくさんの思い出があります。歴史的・建築的にもとても興味深いお寺だと思います。
 金武観音寺は今から490年前(1522年)に日秀上人(にっしゅうしょうにん)によって創建されたといわれ、大変古い歴史があります。当時の日本は戦国時代の乱世で厭世(えんせい)的な気分が社会に充満し、一葉の船に身を預けて南方海上にあると信じられたフダラク山を目指すという「フダラク渡海行者」が多く、日秀もその一人だったと言われています。
 1515年に金武のフックァの海に流れ着いた日秀は、琉球の民衆や国王に迎えられて尊われ、琉球で造寺造仏と布教活動に尽力した後、薩摩へ渡りそこで没します。「由来紀」には、最初に漂流した琉球国の金武をフダラク山と認め、観音寺を建立した経緯が記されています。
 日秀の没後、寺は一度すたれてしまいますが、1699年に首里王府が慧郎(けいろう)を住職につかせ、古仏を除き紫磨金(しまごん)三尊仏を本堂に安置し、屋根を瓦葺(ぶ)きにさせるなどして、お寺を復興させたそうです。
 現存するお寺は、1942(昭和17)年に再建されたものですが、先の戦災で沖縄県下の社寺建築の多くが焼失した中、難を免れた近代木造様式の建築となっています。
 平面は三方に幅90センチの回廊があり、四隅には擬宝珠(ぎぼし)柱が立てられ手すりを巡らせ(写真3)、間柱で建て固められており、左側回廊から渡り廊下で隣接する納骨堂と庫裡<くり>(僧侶が住む場所)へとつながっています。
 向拝(ごはい)の柱は、柱頭の上部で斗棋四方肘木組<ときゅうしかたひじきぐみ>(柱の上にある軒を支える部材の斗棋から、四方へ水平に横木の肘木が突出した組み方。(写真2)がされ、柱には錫杖(しゃくじょう)掘りを施した虹梁(こうりょう)が掛けられていて(写真5)、虹梁の上にはカエル股(写真4)が、梁頭は拳鼻(こぶしばな)の彫刻が飾られています。内々陣(ないないじん)<神体を安置する本殿の一番奥の間>は、内陣床より30センチ上がり、間口3.6メートル、奥行き4メートル、正面両側に20センチ角柱が建てられています。また虹梁が渡され、虹梁上にカエル股、梁の頭上には斗棋四方肘木、天井は竿縁(さおぶち)天井仕上げとなっています。特に彫刻は貴重で、戦火を免れたものは、県内では金武観音寺にしか残っていないそうです。
 フダラク渡航行の結末がほとんど知られることのない中、唯一渡航の結末やその後の行状が知られている日秀。彼の船が偶然琉球国に漂流したと考える専門家の方もいらっしゃいます。金武の若者に助けられた日秀は「村のために役に立ちたい」と、農作物の新しい栽培法を教え、その貢献ぶりを「白砂が米に化した」とたとえた歌まであります。当時の琉球は固有信仰が強かったため、仏教は民衆の中に浸透せずに終わった歴史がありますが、日秀の信仰や情熱が時の琉球の人の内面にどの深さまで届いたかは今、知る由がありません。
 そんな歴史浪漫に想いを馳せながら、一度訪れてみてはいかがでしょうか。

写真2/建物前面に屋根を突き出した向拝の柱は、「斗棋四方肘木組」がされている
写真2/建物前面に屋根を突き出した向拝の柱は、「斗棋四方肘木組」がされている
写真3/本堂を取り巻く回廊。手前にあるのが擬宝珠柱
写真3/本堂を取り巻く回廊。手前にあるのが擬宝珠柱
写真4/カエル股。高さが違う二つの平行した横架材の間に取りつける部材で、カエルの股に似ていることから名が付いた
写真4/カエル股。高さが違う二つの平行した横架材の間に取りつける部材で、カエルの股に似ていることから名が付いた
写真5/弧状になった虹梁の表面には、遊行僧の杖の形に彫った装飾「錫杖掘り」が施されている
写真5/弧状になった虹梁の表面には、遊行僧の杖の形に彫った装飾「錫杖掘り」が施されている

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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞「第1363号2012年1月27日紙面から再掲載」

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