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沖縄独自の御願行事、火ぬ神(ヒヌカン)や屋敷の御願などはやり方や意味が分からなくて悩んでいる人は多いはず。その由来や実践方法まで、沖縄の歴史、民族に詳しい座間味栄議さんに教えてもらい、正しい知識を身につけよう!
「邪悪なもの」の正体とは

ヤナカジ・シタナカジ

ヤシチガミの強力な布陣、その助っ人であるムンヌキムンによって脇を固めるという二重の防御策によって、私たちの家・屋敷は守護されている。
それでも用心深い沖縄の人びとは、邪悪なものの侵入への備えをゆめゆめ怠らない。
それが「シマクサラシ」「ヨーカビー・柴差し」「ムーチー」などの年中行事であり、屋敷の御願での「ユシン・ヤシン」への拝みである。
屋敷の御願で「ヤナカジ・シタナカジ(ヒタナカジとも)」という拝み言葉が登場する。ヤナカジ・シタナカジが家や屋敷へ入り込まないよう、あるいは、はるかかなたのニライ・カナイへ押しのけてくださるよう神々へ祈る。そして福徳だけをもたらしてくださるよう願うのである。
ズバリ、邪悪なものの正体とは「ヤナカジ・シタナカジ」ということになる。とは言っても、それだけでは分かったようでよく分からない。
ヤナカジ・シタナカジと総称される邪悪なものとは、
①ヤナムン…主として悪霊をさす。悪霊には「シニマブイ(死霊)」、「イチマブイ(生霊)」、「火の玉(神火・死霊の火)」、「ユーリー(幽霊)」などがある。これらは人にかかり、病気などの災いをもたらす。
②マジムン…妖怪変化のたぐいで、古道具や動物などに変化して人をたぶらかしたり、災いをなす。道のつじにあって人を惑わす「ヒチマジムン」や、不慮な死のために、死後、祖先霊になれずさまよう霊など。
③ムン…マジムンとほぼ同じと考えられているが、人に取り入ったり、乗り移ったりして災厄をもたらす。
これらを厳密に区別することは難しいのだが、私たちの生活空間に常に漂い、澱んでいるとされている。それだから、二重三重の防御策を講じても、安心・安寧とはいかないのである。
ユシン・ヤシン
邪悪なものは家・屋敷のユシン(四隅=角々)のみならず、ヤシン(八方)からもスキあらば侵入してくるとされている。いわばニヌファ(子の方)からイーヌファ(亥の方)までの十二方位から入り込んでくるというわけだ。そのことは屋敷の御願のことを「ユシン・ヤシンの拝み」ということからもお分かりいただけると思う。
私たちの住む家・屋敷は、神々の強力な布陣によって守護されていると同時に、常に邪悪なものが入ってくる危険にさらされているということになる。
ひとたび「ヤナカジ・シタナカジ」などが家・屋敷に入り込むと、屋敷は荒れ、家族の健康がおかされ、円満な家庭生活がたちまちのうちに損なわれてしまうというのだ。
※写真提供/むぎ社
~参考文献~
「沖縄の魔よけとまじない」/むぎ社発行。ヤナカジ・シタナカジより家・屋敷を守るための「ムンヌキムン」のすべてをコンパクトにまとめた1冊
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執筆/座間味栄議
ざまみ・えいぎ 沖縄県の歴史・民俗を中心に地方出版物を刊行する出版社「むぎ社」を主宰。主な著作に「トートーメーQ&A」「沖縄の拝所」「オバァが拝む 火の神と屋敷の御願」など。御願行事についてやさしく伝えるサイト「御願ドットコム」も運営する。http://www.ugwan.com/
毎週木曜日発行・週刊ほ〜むぷらざにて第2週に掲載中<第1376号2013年11月14日掲載>