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新城和博の「ごく私的な歳時記」<12>

沖縄の秋空
沖縄の秋空

寄る年波に逆らう

小さな秋が島にやってきたら、体調を崩してしまった。ここ数年風邪をこじらせることもなく、インフルエンザの猛威も、のらりくらりとかわしてきたのに、今年は寒暖の差を甘く見ていた。どうにかこうにか身体の調子を整えたかと思ったら、もう年末だ。寄る年波にはいろんな意味で勝てないのだなぁ。妙に早起きした朝、明けの明星を見つめながら、今年やり残したことはないかと考えると…、あった。

今年の春先、原稿を頼まれた。フィクションで、という話であった。「超短編小説」(普通の短編よりももっと短い話のこと)を長年愛してきた僕にとってはうれしい誘いだった。張り切って書いたのだが、その超短編は訳あって掲載されることはなかった。
……没ではない。あくまでも出版社側の都合である。しかし日頃、那覇の街の重箱の隅をつつくような随筆ばかり書いているワタクシとしては、どうにか発表して、念願の「超短編小説家」としてデビューしたかった。残念至極。

というわけで私事で恐縮であるが、今年のやり残したこととを解消すべく、その超短編をここで発表させていただきたい。

えびす通り=那覇・公設市場界隈を歩いて例えばこういうところで小さな店を出すとしたら……なんて考えてしまう。
えびす通り=那覇・公設市場界隈を歩いて例えばこういうところで小さな店を出すとしたら……なんて考えてしまう。

移住者の夢

 那覇の市場で小さい店が増えてきた。どのくらい小さいかというと、店の間口が両手を広げたくらい。そのままハグくらいできそうだ。しないけど。        

 だいたいが、いろんな街や島を旅してきた人たち。僕たち地元の人間は「移住者」と呼ぶ。「引っ越し」でもいいかと思うけれど、人生の転機かもしれないので少し重めに「移住」でいいかしら。ふらりとやってきて、昨日も今日も市場をさまよっていたのに、いつの間にか、カウンターの向こう側に座って商売を始める彼ら。その思いきりのよさと、うちなーんちゅ……つまり僕のような地元民にとって、こじゃれた雰囲気と感じるたたずまいに、最初は違和感を感じたりしたが、もう慣れてしまった。もっと言えば少しうらやましい。悔しいから毎日通っているうちになじみの店が増えてきた。
 ふとしたはずみで始めた店だけど、考えたら小さい頃の夢をかなえていたようです……。
 知り合いの、市場の小さい古本屋の女あるじは、旅行客に本を渡しながら言った。
 「流れ流れて南の島で夢がかなうなんてすてきですね」
 初老の客は、にっこりとほほ笑んで、女あるじを見つめた。
 背の高い女あるじの手が止まった。市場が静かにざわついた。
 なんにも知らないくせに。
 そうつぶやくと、小さな古書店の女あるじは、一度手渡した本をぐいっと引き戻した。「やはりこの本を売ることはやめましょう」と初老の客に宣言するやいなや、店をたたみ始めた。
 あいえなー、と両隣の店のおばちゃんたちは声をあげたが、時すでにおそし。小さな古書店は、あっという間に消えてしまった。夏のことである。
 <ここには長居しすぎました、夢はかなったわけではなかったんです……>
 しばらくして僕の元に届いたはがきには、どこか遠い国の冬の匂いのする、少しにじんだ消印が押されていた。
 移住者の気持ちは複雑だ。でもその思い切りのよさは、僕にとっては気持ちのいいいものだった。(おしまい)

いつも書いていることとあまり違いがなかったな、と今更ながら思った年末であった。

明けの明星=朝、この星を見上げていろいろ物思いにふけった……
明けの明星=朝、この星を見上げていろいろ物思いにふけった……

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この記事のライター

新城 和博

ライター、編集者

新城 和博

1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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